岡崎の方向けの『交通事故』の被害相談 by 弁護士法人心

被害者に減収がない場合の逸失利益はどのように認定されますか?

  • 文責:弁護士 井川卓磨
  • 最終更新日:2022年5月25日

1 結論

被害者の努力がなければ減収していた事実が認められれば逸失利益も認められます。

2 問題の所在

被害者が公務員である場合等に、後遺障害が残存しても、交通事故前からの収入減がない場合があります。

このような場合にも逸失利益が認められるのかについて争いが生じることがあります。

3 学説

後遺障害による逸失利益をどのように捉えるかについては、差額説と労働能力喪失説といった見解に分かれています。

差額説は、賠償の対象となる損害を、「交通事故がなければ被害者が得られたであろう収入と、事故後に現実に得られる収入との差額」とみる見解です。

他方、労働能力喪失説は、労働能力の全部又は一部喪失自体を損害と捉え、現実に収入が失われたかどうかは労働能力の低下の程度を評価するための資料にすぎないとする見解です。

4 最高裁判例の考え

最判昭和42年11月10日は、被害者に収入減が生じていないことを理由として逸失利益を否定しています。

この事案は併合5級という重篤な後遺障害であったにもかかわらず逸失利益が否定されていますので、同判決は厳格な差額説に近い立場とみられています。

最判昭和56年12月22日民集35巻9号1350頁も、同じく被害者に収入減が生じていない事案で、「特段の事情がない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はない」として、差額説を示したうえ、「後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあると認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである」と判示しています。

この判決は、厳格な差額説をとらないことを明らかにしている点で、前掲最判昭和42年11月10日を一歩進めるものですが、労働能力喪失説に立つものとはいえず、緩やかな差額説に立つものと理解されています。

5 小括

以上の裁判例を踏まえると、減収がない場合でも被害者の努力がなければ減収していた事実が認められれば逸失利益も認められると考えられます。

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